コーラル、気の向くままに。
主にサイト関連の事をつらつらと。
管理人の日常や、マンガ・本・テレビ等の感想は、「一言写真日記」にて更新中。(一言写真日記の携帯閲覧はhttp://coralmurmur.tuna.be/へ)
おそらく最初で最後。
★3周年記念企画への回答、ようやく全て完了しました。お待たせしてしまった方々、本当に申し訳ありませんでした!
そしてそして。この企画にて、IM作品について語り、ご要望もくださった貴方様へ。質問回答部屋での予告通り、管理人最初で最後の、ドラマCD「Are you Alice?」の短編をこちらに投下です。
※万が一、ご存知ない方がご覧になっても大丈夫なように、大きなネタバレは書かないようにしています。むしろ、軽いキャラクター紹介話のような雰囲気にも。(苦笑)
「Are you Alice?」をご存知ない方のために説明すると、(IM作品については質問回答部屋で軽く説明させていただいているので、割愛させていただきます。)声は、
アリス?:櫻井孝宏さん、イカレ帽子屋:平田広明さん、チェシャ猫:井上和彦さん
です。読む時にイメージすると面白い…かも?
どうして「アリス?」と名前に「?」がついているのか、そもそも何でアリスが男なのか。理由を知りたい方は、もうCDを買って聞くしかありませんね!(笑)
それでは、普段私が書く話とは毛色が違いますが、おそらく最初で最後のアリス?話、「つづきはこちら」よりスタートです。
Buzz!
役に立たないくせに、秒針の音だけは一人前に主張する五月蠅い時計。テーブルにだらしなくつっぷしながら、金髪の少年は青い瞳でそれを眺めていた。
本来ならば、この時計は役立たずなどではない。いつだってきちんと正しい時刻をこちらに示してくれる、生活に欠かせない必要な物だ。けれど、そんな物はこの室内では意味をなさない。いつだって6時、いつだってお茶の時間であるこの空間では、ただ五月蠅いだけの大きな物体でしかないのだから。
そんな煩わしい秒針の音から逃げるには、このオンボロな店を出ればいいだけだと、少年は知っている。けれど、外に出れば今度は、狂ったように騒がしいパレードの雑音が耳を襲うこともまた知っている。あのガラクタパレードよりは、秒針の五月蠅さの方がまだマシだ。だから、少年はここにいる。ただそれだけ。
――決して、向かいに座る甘党男とティータイムを楽しみたいからなどという、頭のネジが複数飛んだような理由ではない。
「……なぁ、帽子屋」
「あ?」
「すっげー暇」
「何だ?お前もコレ飲みたいのか?だったら自分で淹れろ」
「まっさかー。今時罰ゲームでも流行んねぇよ、そんな砂糖まみれの紅茶」
役立たずな時計から男の手にしているティーカップへと視線を移し、少年は顔を歪めた。かつて紅茶だったはずのそれは、今やすでに砂糖の塊と化している。これならば、ティーカップに砂糖をたっぷりと敷き詰めて、上から紅茶を少し垂らして作ったと説明された方が、まだ納得できる。もっとも、そんなものを食する気など少年には毛頭ないが。
“砂糖の紅茶がけ”を平然と口元に運んでみせながら、室内でも帽子を着用する男は小さく鼻を鳴らす。
「ばっかだなぁ、お前。俺が罰ゲームを毎日好んでするような男に見えるか?」
「ばっかだなぁ、帽子屋さん。アンタのマゾ度は知らないし興味ねぇーけど、9割型の人間は、そんな紅茶嫌がるんだよ」
「おっ!そうなのか!?俺と同類が1割はいるのか!?」
「喜ぶな!変なトコで前向きに食いつくなっ!」
せっかくの嫌味を、斜め上を行く発想でスルーされてしまう。思わずテーブルに預けていた上半身を起こしてまでツッコんだ少年はしかし、視界に入った窓に釘付けになった。
赤茶の耳と、ふわりと風に揺れる長髪。
「何だ?白ウサギでも横切ったか?」
ジャリジャリとあり得ない音を立てるティーカップも、その音を生み出している男の呟きも無視して、少年はテーブルを横ぎり窓に向かった。一応言っておくとこれは、今しがた男に嫌味をスルーされたが故の無視ではない。多分。
ギシリと軋む窓を開ければ、森の濃い緑を背景に、獣の耳を持つ男がニコリと微笑む。
「やぁ、アリスちゃん。今日もいい天気だねぇ」
「そーだな。ほんとにいい“曇り空”だ」
開口一番の適当な発言に、少年も適当に応対する。帽子屋だけでもウンザリなのに、この猫の気まぐれな発言にまでいちいちツッコむなんて、面倒以外の何物でもない。
「で?いつからそこにいたんだよ、チェシャね……」
“こ”と続ける前に、少年は言葉を切った。重たい鉄の塊が発する威嚇の音を、耳が拾ったからだ。
自分の気持ちに正直に、顔を歪めながら少年が振り向けば、予想に違わず銃を握った男の左腕がこちらに突き出されていた。もっとも、その顔はソーサーに載ったティーカップの方に向けられたままではあったが。
「ったく。せっかく俺が親切に無視してやってたってのに、どーしていちいち気づいちまうんだよお前は。このバカアリスっ」
「あぁ、それで白ウサギとか言ってたのか、アンタ」
呆れ顔で呟く少年の隣では、猫が相変わらずの笑顔でふふ、と笑う。
「いきなりだなぁ帽子屋さん、挨拶も無しに銃口突き付けるなんて。……それともそれは、帽子屋さんが生み出した斬新な挨拶方法かな?」
「そーだな。できれば正式な挨拶法として国中に広めたいぐらいだ、“対バカ猫用”としてな。……バカ猫は俺の店に立ち入り禁止。何度言わせる気だ?その耳は飾りか?」
「ばっかだなぁ、帽子屋さん。確かに僕の耳は装飾品かと見紛うほど綺麗かもしれないけど、ちゃーんと聴覚も機能してるよ?」
猫の言葉が終わらないうちに、ガンッ、と重たい音がその場の空気を揺らした。「盗み聞きまでしてやがったな、バカ猫」と地を這うような低い声がそれに続くが、少年としては無論それどころではない。
「あっ……ぶねぇーなぁ!おい、いきなり撃つなよ帽子屋!しかもこっち見もせずに!可愛いアリスさんに当たったらどーすんだよっ!?」
「アリスちゃーん、僕の心配はしてくれないの?」
「お前は自業自得」
「はーい」
横目で斬って捨てる少年に、猫は肩を竦めてわざとらしく頷いた。その様に、「よく言う」と内心だけで少年はぼやく。瞬時に姿を消せるこの猫は、よっぽど油断していない限り、そう簡単に弾になど当たらないというのに。
同じくそんなことはとっくに知っているはずの帽子の男は、銃を構えた腕を下ろさないまま「はっ」と小馬鹿にしたように嗤う。
「残念だが、俺はバカ猫が見えない設定だ。見えないものの方をわざわざ向く必要がどこにある?……それと、ものすっごい勘違いをしてるみてぇだから一応教えといてやるとな、そこのバカアリス。不思議の国では生意気でギャーギャー五月蠅いお子様を『可愛い』とは言わないんだよっ」
「え?何?『俺は常識を知りません』って言いたいのか?」
「どこをどう聞いたらそんな訳し方になるんだよっ!」
そんな常識あってたまるか!などと続く男の文句を完全に聞き流し、少年は頭の後ろで両手を組むと窓枠に寄り掛かった。胸中では勝手に、今日を「帽子屋の発言をさり気なく無視しようの日」と命名してみる。うん、我ながら素晴らしいアイディアだ。
勿論これは、暇潰しなどでは決してない。決して。
「あぁでも、成程な。それでアンタ、さっきから全然こっち向かねぇのか。うーわ、29の甘党男が大人げねぇー」
「おいアリス!ひとの話を聞けっ!さりげなく俺を罵倒すんな!!」
「そんなことないよー、アリスちゃん。大人だからこそ、帽子屋さんはこっちを向けないんだ。ほら、実際に僕のこと見ると、見えない設定にしてることスグ忘れちゃうからね、“老化現象”で」
「……そしてバカ猫はまた撃たれてぇのか?」
「どっちでも」
ニッコリ笑顔のチェシャ猫の返答に、帽子屋はとうとう溜息を吐いた。この猫に威嚇なんてしたところで無駄なのだと、いい加減気づけばいいのにと少年は思う。
窓枠の向こうでは、猫がまたふふ、と楽しげな笑い声を落とす。
「そんな風に溜息つくけどねぇ、帽子屋さん。僕はちゃーんと君の言い付けを守ってるよ?ただ窓の外にいるだけで、ほーら、爪の先だって君のオンボロな店には入れてない。……って、帽子屋さんこっち向いてないから見えないか」
「チェシャ猫、あんまりオンボロオンボロ言うなよな。確かに否定はしねぇけど、此処に住んでるおれの虚しさ倍増じゃん?」
「あぁ、そっか。ごめんねーアリスちゃん、気づかなくって」
「お前らは俺の店を何だと思ってる」
割って入った低い声に、少年と猫は顔を見合わせる。
「帽子と埃だらけのオンボロ屋敷?」
「右に同じく」
瞬間、椅子から立ち上がった帽子屋が、本日初めてこちらをまともに振り返った。この上ない無表情で。
「よーし、決めた。今からバカ猫とバカアリスを的にした射的ショーを開催する。死ぬ覚悟なんてしなくていい、その前に殺してやるっ!!」
「うっわ、やべ!逃げるぞチェシャ猫!目がマジだ!……って、あれ?」
慌てて少年が窓の外に首を捻れば、さっきまでそこにいたはずの影がどこにもない。
やられた。少年は思わず舌打ちした。
「ずるっ!アイツ先に消えやがったな!?おい、帽子屋!チェシャ猫の奴が逃げやがったぞ!けど安心しろ、まだそう遠くまでは行ってないはずだ。今から追いかければきっと間に合う!さぁ行け!すぐ行け!おれのことは放ってさっさと行け!」
「何をブツブツ言ってやがる!?俺には元々あんな猫見えてねぇって言ってんだろーがっ!」
「嘘つけ!見えてるくせに!って、うっわ!待てっ!撃つなバカッ!」
「バカはどっちだ!ぜってー許さんっ!」
「やーめーろーっ!!」
窓枠を飛び越え、少年は曇り空の下へと飛び出す。追いかけてくる怒声と銃弾には抗議を、姿の見えない来訪者には罵倒を、全身全霊で叫びながら森へ向かって駆け出した。
今のおれ達は、あの時計の秒針よりもパレードよりも、きっと五月蠅い。
**********
☆おまけCDやwebCMの雰囲気で書かせていただきました。本編のあの独特のシリアスムードは管理人には絶対無理なので。(苦笑)
ブラックな会話、嫌みの応酬。やっぱり本家には敵いません。(笑)
ここまでご覧になってくださった方、有難うございました!
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そしてそして。この企画にて、IM作品について語り、ご要望もくださった貴方様へ。質問回答部屋での予告通り、管理人最初で最後の、ドラマCD「Are you Alice?」の短編をこちらに投下です。
※万が一、ご存知ない方がご覧になっても大丈夫なように、大きなネタバレは書かないようにしています。むしろ、軽いキャラクター紹介話のような雰囲気にも。(苦笑)
「Are you Alice?」をご存知ない方のために説明すると、(IM作品については質問回答部屋で軽く説明させていただいているので、割愛させていただきます。)声は、
アリス?:櫻井孝宏さん、イカレ帽子屋:平田広明さん、チェシャ猫:井上和彦さん
です。読む時にイメージすると面白い…かも?
どうして「アリス?」と名前に「?」がついているのか、そもそも何でアリスが男なのか。理由を知りたい方は、もうCDを買って聞くしかありませんね!(笑)
それでは、普段私が書く話とは毛色が違いますが、おそらく最初で最後のアリス?話、「つづきはこちら」よりスタートです。
Buzz!
役に立たないくせに、秒針の音だけは一人前に主張する五月蠅い時計。テーブルにだらしなくつっぷしながら、金髪の少年は青い瞳でそれを眺めていた。
本来ならば、この時計は役立たずなどではない。いつだってきちんと正しい時刻をこちらに示してくれる、生活に欠かせない必要な物だ。けれど、そんな物はこの室内では意味をなさない。いつだって6時、いつだってお茶の時間であるこの空間では、ただ五月蠅いだけの大きな物体でしかないのだから。
そんな煩わしい秒針の音から逃げるには、このオンボロな店を出ればいいだけだと、少年は知っている。けれど、外に出れば今度は、狂ったように騒がしいパレードの雑音が耳を襲うこともまた知っている。あのガラクタパレードよりは、秒針の五月蠅さの方がまだマシだ。だから、少年はここにいる。ただそれだけ。
――決して、向かいに座る甘党男とティータイムを楽しみたいからなどという、頭のネジが複数飛んだような理由ではない。
「……なぁ、帽子屋」
「あ?」
「すっげー暇」
「何だ?お前もコレ飲みたいのか?だったら自分で淹れろ」
「まっさかー。今時罰ゲームでも流行んねぇよ、そんな砂糖まみれの紅茶」
役立たずな時計から男の手にしているティーカップへと視線を移し、少年は顔を歪めた。かつて紅茶だったはずのそれは、今やすでに砂糖の塊と化している。これならば、ティーカップに砂糖をたっぷりと敷き詰めて、上から紅茶を少し垂らして作ったと説明された方が、まだ納得できる。もっとも、そんなものを食する気など少年には毛頭ないが。
“砂糖の紅茶がけ”を平然と口元に運んでみせながら、室内でも帽子を着用する男は小さく鼻を鳴らす。
「ばっかだなぁ、お前。俺が罰ゲームを毎日好んでするような男に見えるか?」
「ばっかだなぁ、帽子屋さん。アンタのマゾ度は知らないし興味ねぇーけど、9割型の人間は、そんな紅茶嫌がるんだよ」
「おっ!そうなのか!?俺と同類が1割はいるのか!?」
「喜ぶな!変なトコで前向きに食いつくなっ!」
せっかくの嫌味を、斜め上を行く発想でスルーされてしまう。思わずテーブルに預けていた上半身を起こしてまでツッコんだ少年はしかし、視界に入った窓に釘付けになった。
赤茶の耳と、ふわりと風に揺れる長髪。
「何だ?白ウサギでも横切ったか?」
ジャリジャリとあり得ない音を立てるティーカップも、その音を生み出している男の呟きも無視して、少年はテーブルを横ぎり窓に向かった。一応言っておくとこれは、今しがた男に嫌味をスルーされたが故の無視ではない。多分。
ギシリと軋む窓を開ければ、森の濃い緑を背景に、獣の耳を持つ男がニコリと微笑む。
「やぁ、アリスちゃん。今日もいい天気だねぇ」
「そーだな。ほんとにいい“曇り空”だ」
開口一番の適当な発言に、少年も適当に応対する。帽子屋だけでもウンザリなのに、この猫の気まぐれな発言にまでいちいちツッコむなんて、面倒以外の何物でもない。
「で?いつからそこにいたんだよ、チェシャね……」
“こ”と続ける前に、少年は言葉を切った。重たい鉄の塊が発する威嚇の音を、耳が拾ったからだ。
自分の気持ちに正直に、顔を歪めながら少年が振り向けば、予想に違わず銃を握った男の左腕がこちらに突き出されていた。もっとも、その顔はソーサーに載ったティーカップの方に向けられたままではあったが。
「ったく。せっかく俺が親切に無視してやってたってのに、どーしていちいち気づいちまうんだよお前は。このバカアリスっ」
「あぁ、それで白ウサギとか言ってたのか、アンタ」
呆れ顔で呟く少年の隣では、猫が相変わらずの笑顔でふふ、と笑う。
「いきなりだなぁ帽子屋さん、挨拶も無しに銃口突き付けるなんて。……それともそれは、帽子屋さんが生み出した斬新な挨拶方法かな?」
「そーだな。できれば正式な挨拶法として国中に広めたいぐらいだ、“対バカ猫用”としてな。……バカ猫は俺の店に立ち入り禁止。何度言わせる気だ?その耳は飾りか?」
「ばっかだなぁ、帽子屋さん。確かに僕の耳は装飾品かと見紛うほど綺麗かもしれないけど、ちゃーんと聴覚も機能してるよ?」
猫の言葉が終わらないうちに、ガンッ、と重たい音がその場の空気を揺らした。「盗み聞きまでしてやがったな、バカ猫」と地を這うような低い声がそれに続くが、少年としては無論それどころではない。
「あっ……ぶねぇーなぁ!おい、いきなり撃つなよ帽子屋!しかもこっち見もせずに!可愛いアリスさんに当たったらどーすんだよっ!?」
「アリスちゃーん、僕の心配はしてくれないの?」
「お前は自業自得」
「はーい」
横目で斬って捨てる少年に、猫は肩を竦めてわざとらしく頷いた。その様に、「よく言う」と内心だけで少年はぼやく。瞬時に姿を消せるこの猫は、よっぽど油断していない限り、そう簡単に弾になど当たらないというのに。
同じくそんなことはとっくに知っているはずの帽子の男は、銃を構えた腕を下ろさないまま「はっ」と小馬鹿にしたように嗤う。
「残念だが、俺はバカ猫が見えない設定だ。見えないものの方をわざわざ向く必要がどこにある?……それと、ものすっごい勘違いをしてるみてぇだから一応教えといてやるとな、そこのバカアリス。不思議の国では生意気でギャーギャー五月蠅いお子様を『可愛い』とは言わないんだよっ」
「え?何?『俺は常識を知りません』って言いたいのか?」
「どこをどう聞いたらそんな訳し方になるんだよっ!」
そんな常識あってたまるか!などと続く男の文句を完全に聞き流し、少年は頭の後ろで両手を組むと窓枠に寄り掛かった。胸中では勝手に、今日を「帽子屋の発言をさり気なく無視しようの日」と命名してみる。うん、我ながら素晴らしいアイディアだ。
勿論これは、暇潰しなどでは決してない。決して。
「あぁでも、成程な。それでアンタ、さっきから全然こっち向かねぇのか。うーわ、29の甘党男が大人げねぇー」
「おいアリス!ひとの話を聞けっ!さりげなく俺を罵倒すんな!!」
「そんなことないよー、アリスちゃん。大人だからこそ、帽子屋さんはこっちを向けないんだ。ほら、実際に僕のこと見ると、見えない設定にしてることスグ忘れちゃうからね、“老化現象”で」
「……そしてバカ猫はまた撃たれてぇのか?」
「どっちでも」
ニッコリ笑顔のチェシャ猫の返答に、帽子屋はとうとう溜息を吐いた。この猫に威嚇なんてしたところで無駄なのだと、いい加減気づけばいいのにと少年は思う。
窓枠の向こうでは、猫がまたふふ、と楽しげな笑い声を落とす。
「そんな風に溜息つくけどねぇ、帽子屋さん。僕はちゃーんと君の言い付けを守ってるよ?ただ窓の外にいるだけで、ほーら、爪の先だって君のオンボロな店には入れてない。……って、帽子屋さんこっち向いてないから見えないか」
「チェシャ猫、あんまりオンボロオンボロ言うなよな。確かに否定はしねぇけど、此処に住んでるおれの虚しさ倍増じゃん?」
「あぁ、そっか。ごめんねーアリスちゃん、気づかなくって」
「お前らは俺の店を何だと思ってる」
割って入った低い声に、少年と猫は顔を見合わせる。
「帽子と埃だらけのオンボロ屋敷?」
「右に同じく」
瞬間、椅子から立ち上がった帽子屋が、本日初めてこちらをまともに振り返った。この上ない無表情で。
「よーし、決めた。今からバカ猫とバカアリスを的にした射的ショーを開催する。死ぬ覚悟なんてしなくていい、その前に殺してやるっ!!」
「うっわ、やべ!逃げるぞチェシャ猫!目がマジだ!……って、あれ?」
慌てて少年が窓の外に首を捻れば、さっきまでそこにいたはずの影がどこにもない。
やられた。少年は思わず舌打ちした。
「ずるっ!アイツ先に消えやがったな!?おい、帽子屋!チェシャ猫の奴が逃げやがったぞ!けど安心しろ、まだそう遠くまでは行ってないはずだ。今から追いかければきっと間に合う!さぁ行け!すぐ行け!おれのことは放ってさっさと行け!」
「何をブツブツ言ってやがる!?俺には元々あんな猫見えてねぇって言ってんだろーがっ!」
「嘘つけ!見えてるくせに!って、うっわ!待てっ!撃つなバカッ!」
「バカはどっちだ!ぜってー許さんっ!」
「やーめーろーっ!!」
窓枠を飛び越え、少年は曇り空の下へと飛び出す。追いかけてくる怒声と銃弾には抗議を、姿の見えない来訪者には罵倒を、全身全霊で叫びながら森へ向かって駆け出した。
今のおれ達は、あの時計の秒針よりもパレードよりも、きっと五月蠅い。
**********
☆おまけCDやwebCMの雰囲気で書かせていただきました。本編のあの独特のシリアスムードは管理人には絶対無理なので。(苦笑)
ブラックな会話、嫌みの応酬。やっぱり本家には敵いません。(笑)
ここまでご覧になってくださった方、有難うございました!
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